2014年3月6日木曜日

EightReports ver3.0を公開しました

まとまった文章を書くスペースが必要になったのと、LaTeXまわりの技術的な話をまとめようかなとかねがね思っていたので、ブログを始めることにしました。
と、挨拶はここまでとして宣伝でございます。

なにはともあれ、iOSゲーム『EightReports』のアップデート(Ver3.0)が出ました。
また完結記念として、三月末までの期間限定でEightReportsを300円→100円にします。
EightReports - Shota Oki
無料版の『トゥオネラの魔』も更新しました。
トゥオネラの魔 - Shota Oki
シナリオは完結し、完全な形で英語翻訳もされました。
バグフィックスをして、システムの不都合な部分を修正しました。
敵キャラクタも増えましたし、フィールドも増えました。
これで拡張はおしまいです。
今後、バグフィックス以外の理由で修正を入れることはありません。
とてもいいゲームになったなと思います。

1、シナリオの話
シナリオの原型を書いたのが2010年、ゲーム用にまとめ直したのが2011年です。
その2011年の初稿と実際のゲームを比べると、かなり印象が違います。
見比べるのも一興かと思うので、初稿のあらすじを載せておきます。
(比較対象のゲーム本編のあらすじは、ゲーム本編で見てください)
戦争(=公共事業)に依存しすぎた国があった。
終戦を迎えたが、十分な賠償金が得られず国債は返済できなかった、労働可能な若者も残っていない、農地は荒れ、学校の閉鎖を続けたことで識字能力のない子供が増え職人としての養成ができない、他国との競争力もない。結果として経済が支えられなくなり、せめて軍用品の買い上げと兵隊の雇用を続けるために終戦を隠すことにした。
それを調べるのが連合から派遣された女性外交官(シーネ)であり、シーネには王室警護の男(フォルト)が護衛としてつけられた。
賠償金を得られなかった理由は、強力すぎる兵器を使ったことで相手の国としての機能そのものが失われたためである。教授の作り上げたそれは、アイダベルと呼ばれていた。(本編で使う場所が多いので掲載しない)
女がいた。女はフォルトが護衛として人を殺す姿とその技術に惹かれていて、自分自身がその美しいものの一部になること(=殺される対象になること)を望んでいた。フォルトに自分が危険な人物だと思わせようとしていたが、何をしてもフォルトの気を引くことができない。彼女は隠棲していた王女の首を切り取ってフォルトに手渡すことにした。激怒したフォルトは女の望み通りに首の骨を折って殺すが、それを見ていたシーネはフォルトから距離を置くようになる。
フォルトは国王をかばうためにシーネを裏切り、寝返った。
エンディングでは、シーネが「事実は正確に報告するように」と釘を刺されるが、フォルトを手にかけたことが後ろめたい彼女は「報告書は嫌いよ(I hate reports.)」と小声で応じる。それを聞き違えたジャーナリストが、Eight Reports(八部の報告書)があるのだと受け取って、単身で取材を始める。

こういう話になる予定だったんですね。
予定は予定であって、ならなかった。
なぜならなかったのか、というと予算と開発期間の都合です。
このゲームの開発費は飛び抜けて安い部類に入るはずです。
プログラムを組むのは僕一人です。ライブラリや開発環境の多くを自作して、古いMacBookProで開発できるようにしてありますから、機材費もそうかかりません。ライセンス料やロイヤリティを払う必要はなく、リソースはプログラムによる使い回しや代替で少ない。
それでも開発にかかる実費がゼロにはなることはありません。
実費を削ればそれだけ時間がかかります。
このくらいは開発ができるだろう、という見通しの立った時点で実現可能な部分に絞り込んで、そこにフォーカスを当てて完結させる必要がありました。もちろん完全にシェイプを絞られた話ではありませんし、初稿の頃の名残がありますから、キャラクタの配置や伏線を見た時に「このキャラは必要なの?」と思う部分があるかと思います。それを含めての紆余曲折というか、インディーズらしさを楽しんでいただけたらなと思います。

2、翻訳の話
それとシナリオの完結に合わせて、英語翻訳されています。
とはいっても僕はさっぱり英語ができない。
じゃあ業者に発注にかけようか、というとそれも難しい。NPCとの会話、ゲーム中のアイテムの説明文、イベントのセリフがありますから、量自体が相当なものです。それに肝心の内容は翻訳しづらいことこの上ない。
たとえばアイテムに「輓近代数学の展望」(太平洋戦争中に出版され、当時の最先端の数学がまとめてありましたから、学徒出陣した学生が戦地に持っていったと言われています)が出てきますが、そのタイトルを翻訳したところで、英語圏のプレイヤーにとっては(日本での意味合いほど)強い意味やストーリー性のあるものではない。代替の翻訳を当てることになるでしょうが、業者相手でそういう擦り合わせは難しいんじゃなかろうか。そういう理由で翻訳はほとんど諦めていました。
StudioLoupeのリオ・リーバス先生が専業開発を引退されるとお聞きしましたので、(気が引ける量ではありますが…)英語翻訳をお願いしてみましたところ、翻訳を快諾していただきました。難しいかと思っていた部分もスムーズに進みまして、素晴らしい翻訳になりました。
原文:「靴墨とシャンパン」
翻訳:A shoe polish and a champagne,
原文:「詩学 第二部」
翻訳:Poetics – The Lost 2nd Book
かなり丁寧な翻訳だと実感した二文をあげてみました。
対訳の確認をしている時に個人的に感動した二文です。
靴墨の英語には二種類あり、乳化性か油性かで名前が違います。なぜ日本ではシューパフが靴墨と同じ名前で売られているの、という話に出てくるあれは乳化性の靴墨です。だから僕も最初に見た時は「shoe creamじゃないの?」と思いました(頼んであってよかった…)。シャンパンやウィスキーで靴墨を溶いて磨くときには、油性の靴墨を使いますから、shoe polishになります。
また、ウンベルト・エーコが「薔薇の名前」で話題にした通り、アリストテレスの書いた詩学の第二部は特別な本です。その存在が第一部の巻頭で宣言されていますが、実物は見つかっていません。それが良くわかる翻訳じゃないかと思います。
原文:
「人間はただの数かね?」
「数は文句を言わんし、失敗もせん」
翻訳:
So they're just numbers to you?
Numbers don't complain, and don't let me down.
これも素晴らしい翻訳です。
「人間を数でしか見ないなんてきみは実にひどいやつだ」
「へまをせず文句も言わないだけ、無能より数字の方がマシさ」
と、原文を丁寧に書くとこんな感じのやり取りなんですが、ぼかさずに書くと野暮で気障になりますし、あまりにも長くなります。原文の言い方を直訳すればand they don’t fail.となるはずですが、直訳では原文の意図から外れます。「数が私を落胆させることはない」のニュアンスはかなり近い。
こんな具合に、原文のニュアンスを綺麗にまとめてくださった翻訳を頂いております。
もし機会がありましたら、iOSの言語設定を日本語以外にして、英語版でも楽しんでいただければと思います。
3、それ以外の話
アップデートでグラフィックと音源の入れ替え、アドバタイズの充実、操作方法の拡張を行いました。
アドバタイズとして、これまでは説明書を使っていました。説明書を作って、これで操作方法は分かるだろうと踏んでいたんですが、読むのになんというか手間がかかってしまって、自分で見ていても読みそうにない。これくらいならゲーム中で説明が流れた方がいい、ということでゲーム中にアドバタイズが出るようにしました。特定の操作をした時点で画面に説明文が出てきます。
操作方法も少し増えました。フリック操作に対応したことで、iPhoneの操作に近い感覚で動かせるようになりました。デバッグでもずいぶん楽になったことを実感しました。操作感のストレスが軽減されただけでなく、音とグラフィックの調整も入りましたから、かなり気持ちのいい戦闘になりました。
どうぞよろしくお願いします。
ここまでにします。それでは、また。

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